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命のリレー(イラク邦人人質事件によせて)

イラク人質事件を考える

―この一生では叶わぬ思いをバトンを渡す、願いを込めて
(中島みゆき”命のリレー”より)

暴力の連鎖

20世紀が終わるとき、私はなぜか楽観的に考えていた。戦争と暴力に明け暮れた20世紀の反省を踏まえて、21世紀はきっと穏やかで平和な、そして希望に満ちた世紀になるはずだ、と。

それは、9・11以後、みごとに崩れ去っていった。「テロ」と名付けることによって、新たな「敵」を見いだしたアメリカによる国家的な「テロ」。暴力の連鎖のはじまりである。

そして、ついに日本は、「人道復興支援」という隠れ蓑を着せて自衛隊をイラクへ派兵し、暴力の連鎖に加わってしまった。

今井紀明君との出会い

おもしろい高校生がいるので会ってやってほしいと、知人からメールが来たのは、1月も末のこと。

自衛隊派兵反対を訴えるために、集会、街宣、ピースウォーク、議会での質問と出来る限りのことをやったにもかかわらず、止めることが出来なかった無力感に打ち拉がれていた時だった。

待ち合わせ場所である私の事務所に現れた彼は、物怖じはしないが無礼ではなく、大人びてはいたが同時にあどけなさと青年のさわやかさを持っていた。

「なんで議員になったんですか」「どういうことをやりたいんですか」「なぜ劣化ウランのことを議会で取り上げたんですか」と矢継ぎ早にインタビューされ、2時間近く色々なことを話し、これからも連絡を取り合おうね、と言って別れた。その高校生が人質となった今井紀明君だ。

反対しても抵抗しても時代に押しつぶされ流されて行くようで、何をやっても無駄なような、そんな諦めの気持ちになりかけていたが、彼に出会ってささやかな希望の光が差してきた。

私の一生では叶わぬ思いを、こういう若い人に繋ぐために、今の私たちの活動はあるのかもしれないと思えたからだ。

バッシングの本当のねらい

栗田禎子氏(千葉大学教授・中近東現代史専門)は週刊金曜日で次のように語っている。

「今回の人質事件を引き起こしたのは米国の無法な戦争を支持し、イラクに自衛隊を派兵した日本政府の政策であり、政治的誘拐であること。個々人の責任ではなく、自衛隊を派兵した日本政府の政策に抗議し、撤回を求める勢力によって誘拐が行なわれ、市民が人質として犠牲になったのであり、問われているのは『自己責任』ではなく『政府責任』である。

3人が解放されたのは、3人がイラクの民衆の側に立っていたこと、日本中で自衛隊撤退を求めるデモや集会が行なわれるなど、市民運動が総力を挙げて取り組んだ結果である。

政府の言動は人質の生命を危険に晒しただけで、政府の『おかげ』で解放されたのではなく、政府の誤った対応『にもかかわらず』、市民運動の力でようやく救われたのだ。

今回、政府は国民の生命を守ろうとする姿勢を全く見せなかったばかりか、自衛隊派兵に反対する市民がいることに立腹し、『自己責任』論を持ち出して人質となった3人とその家族、そして支援するNGOや市民運動に対して陰湿なバッシングを開始した。これは明らかに、戦争に反対する市民運動への弾圧の延長線上にあり、この機に反戦運動を潰そうとする狙いがある。

今後の市民運動の課題として人質が解放されたことで安堵するのではなく、イラクで行なわれている占領軍による虐殺や弾圧に抗議するとともに、自衛隊の即時撤退を求めていくべき」と。

私も全く同感である。その他にも、栗田氏と同じような意見がインターネットを通じてたくさん届いている。

どんなバトンを渡したいのか

悲しいことに政府のバッシングに同調する「普通の人々」も少なくない。

私は、それらの人々に問いたい。あなた方は、どんなバトンを次の世代に渡したいのですか?と。

暴力が暴力を引き起こし、あらゆる意味の「力」によって他者を押さえつけていく弱肉強食の世界を目指すバトンですか、それとも、他者との違いを認め合いながら他者と穏やかに共存する共生の世界を目指すバトンですか。

私は、後者のバトンを渡したい!21世紀は、確かに私が思っていたのとは違う暗い世紀になりそうな予感に満ちあふれている。いや、ひょっとしたら、いつだって世界は暗いのかもしれない。

しかし、私たちは遠くに見えるささやかな希望に向かってバトンを渡し続けなければならないのではないだろうか。時には誰かからバトンを受け取って、時には誰かが落としたバトンを拾い、そして時にはめげてバトンを落としそうになりながら、それでももう一度しっかりと握りしめて・・・。

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