平成16年第3定例会 一般質問            
                                   久保あつこ
一回目
 通告に従い、一回目の質問をいたします。

基本的人権の尊重は、日本国憲法の最も重要な理念の一つでありながら、現実にはいまだ人権が尊重されなかったり、侵害されたりすることが多々あります。また、近年は、ドメスティック・バイオレンス、児童虐待、インターネットを媒体としたプライバシー侵害、HIV感染者や性的少数者すなわちセクシュアル・マイノリティに対する偏見と差別など、新たな人権問題も顕在化し、人権を取り巻く状況は複雑、多様化してきています。

21世紀は「人権の世紀」と言われており、人権の尊重が平和の基礎であるという共通認識のもと、人々が世代や性別、民族や文化、習慣の違いを越えて、互いの個性を尊重し、認め合う、思いやりに満ちた「人権が尊重される社会」を実現することが重要な課題となってきています。

そういう認識のもと、国は、平成12年12月に「人権教育及び人権の啓発の推進に関する法律」を策定しました。この法律の中では、第5条「地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する」とし、地方公共団体の責務を明らかにしています。また、平成13年5月には、人権擁護推進審議会の答申が提出され、平成14年3月には、「人権教育・人権啓発に関する基本計画」も策定されました。

このように、国においては人権教育と人権啓発を推進するための取り組みが進められております。そこで、お伺いします。旭川市では、これら国の動きを受けて、学校教育における人権教育並びに市民に向けての人権啓発をどのように進めてきていますか、お答えください。

 次ぎに、先程も述べました新たに顕在化してきた課題であるセクシュアル・マイノリティに対する偏見と差別の問題について触れたいと思います。

人権擁護推進審議会の答申「人権救済制度の在り方について」では、積極的救済を図られるべき差別として、同性愛や両性愛などの性的指向が挙げられると同時に、セクシュアル・マイノリティーに位置付けられる「性同一性障害」や先天的に身体上の性別が不明瞭であるいわゆる「インターセックス」を理由とする差別的取り扱いについても、同様に積極的救済を図るべきであると答申しています。これを受けて制定された「人権教育・啓発に関する基本計画」でも、セクシュアル・マイノリティーの問題は、取組の中に明確に位置付けられています。

そういった流れと当事者の方々の思いを受けて、国は、昨年7月「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」を公布し、今年7月から施行しました。この法律は、性同一性障害と診断された者が一定の条件を満たした場合に限って、戸籍の性別を変更できるという法律です。

性同一性障害とは、身体的な性別と心理的な性別が合致せず、そのことに苦悩している状態を指します。たとえば、身体の性が男性であっても心では「自分は女性である」としか思えなければ、大きな違和感が生まれ、たいへんな苦痛を感じることになります。また、逆の場合もあります。同性愛と混同されることも多いのですが、男性の同性愛者は「自分は男である」と認識した上で、男性を性愛の対象としています。心と体の性が一致しているという点で、性同一性障害とは違います。

性同一性障害が起こる原因は、まだよく解っていません。現在では、胎内で心の性が決定する時期に何らかの異常が起こることにより、身体と心の性の食い違いが起こるのではないかと考えられています。

諸外国の統計によれば、おおよそ成人男性の3万人に1人、成人女性の10万人に1人が性同一性障害といわれ、日本では1997年から2003年2月までに主要医療機関を受診した人は約2200人程度ですが、当事者の実数はそれらを遙かに超えるだろうと言われています。

北海道においてもその実数はつかめていませんが、札幌医大に受診している患者数が約90人であり、潜在的人数としては、その10倍以上ではないかと推察されています。

性同一性障害の当事者は、日々暮らしていく上で、偏見や差別的扱いを受けるなど、様々な困難を抱えています。そういった偏見や差別を少しでもなくし、生きやすい社会を創るために、当事者たちが立ち上がり、平成15年に「性同一性障害を抱える者が普通に暮らせる社会をめざす会」を立ち上げました。

彼らの考えを知っていただくために、会の設立趣意書から抜粋して引用させていただきます。

「性同一性障害の当事者をとりまく環境は、相変わらず厳しいものがあります。

 私たちは今までは、どちらかといえば、世間から隠れて生きてきたように思います。しかし、埋没し何も物を言わないのでは世の中はかわりません。誰かがやってくれるのを待っていたのではだめなのです。自分の問題は自分で動かなければ良い方向には進まないのです。

 会では、当面取り組む課題を実現するために、国会および地方議員への陳情、関係各省庁への働きかけ、フォーラムの開催、マスコミへの情報宣伝など様々な活動を行う予定です。

 会の名称を『性同一性障害をかかえる人々』としたことには、わけがあります。私たちは、好きこのんで性同一性障害の当事者として生きているわけではありません。普通に男性として、あるいは女性として生活できるのであれば、どんなにか楽でしょう。しかし、私たちはいろいろな苦しい思いをしながら、この生き方を選択せざるを得ませんでした。『性同一性障害をかかえる人々』とあえて言う意味はそこにあります。

 『普通に暮らせる社会をめざす』というのは、この会の最終的な目標です。私たちは、ただ『普通に』暮らしたいだけなのです。何も特別な保護を求めているわけではありません。私たちは、性自認すなわち自分の性別を認識することを除いては他の多くの人々と何ら変わることがありません。でも多くの不利益を被ってきています。偏見にさらされています。他の人と同じように『普通に』暮らせること。これが多くの当事者が願っていることなのです。」と性同一性障害者であるが故の生きがたさとそれを変えていくために行動を開始する思いを語っています。

先日、その会の北海道世話人である日野由美氏と旭川市在住の当事者である岩本睦氏から、旭川市長と旭川市議会議長に「性同一性障害をかかえる人々が普通に暮らせる社会環境の整備を求める要望書」が提出されました。要望書の中には、市に行政として取り組んでほしい課題が11項目に渡って載せられていました。その要望に添って、順次質問いたします。

  1,「印鑑証明書などの公文書から可能な限りの性別欄の削除」ですが、昨年、特例法が策定されてから、全国各自治体で取組が進められてきております。旭川での取組状況はどうなっていますか。

 2,「選挙時の入場整理券から性別に関する情報の削除。投票所内での対応に配慮すること」ですが、こちらも特例法が出来てから各自治体での取組が進んでいます。旭川市ではどのようになっていますか。先程の「めざす会」には、投票所の受付での心ない対応、たとえばクスクス笑ったり、指をさして男か女かと詮索するなど不愉快な対応をされ、もう二度と選挙に行きたくないと思ったという当事者の声が多く寄せられています。対応について、今後どのような配慮をしていくおつもりですか。


 3,「成人式における案内ハガキの性別表記の廃止と男女別入り口の廃止など性同一性障害者に対する配慮」ですが、これは、旭川市在住の当事者である岩本さんが、文化会館で行われた成人式で、実際に経験したことをもとに要望しています。今年成人の岩本さんは、戸籍は女性となっていますが、実生活では男性として生活しています。成人式で、戸籍に合わせて女性の受付に行ったところ、ここではないと言われ押し問答になり、押し切るような形で入場し、非常に嫌な思いをした、こんなことなら来なければ良かったと思ったということから要望したそうです。来年からの対応についてお答えください。


 4,「ユニバーサルトイレの設置など、性同一性障害者に配慮した公共施設の整備」です。私たちは普段な にげなくトイレを使っていますが、性同一性障害者にとっては、戸籍が男性の方が女性の格好をして女 性用のトイレに入ると、最悪の場合性犯罪者として扱われることもあることから、出来るだけ外出を避け るようになってしまいがちになるなど、行動範囲が狭くなります。せめて公共施設だけでもトイレの心配をせずに利用したいという要望ですが、市には何カ所のユニバーサルトイレがありますか。また、今後の設置についてはどのようになっていますか。

 5,「公的医療機関における初期段階治療を可能とする受け入れ体制作り」についてです。性同一性障害の治療は、大きく3段階に分れていて、第1段階が1年間かけて行う精神科医による精神的サポートです。 カウンセリングによってどうやって生きていくのが本人にとって一番良いのかを話し合い、性別移行をしていきます。第2段階はホルモン療法で、第3段階が以前は性転換手術と言われていた性別適合手術となります。

 6,「GIDクリニックなど、性同一性障害者が行きやすい医療体制作り」です。当事者は、身体の性と心の性が違うことから、自分の身体に対する違和感、嫌悪感が強く、体を他者に見せることを非常に嫌がります。そのため、病院に行くことを極端に避けるきらいがあり、最悪な事例としては、30代の男性当事者がガンになったにもかかわらず、病院へいくことを拒否し続け、命をなくすということもありました。そこまで極端ではなくても、病院側にこの問題に対する認知と理解がないために、不快な思いをさせられ、病院へ行かなくなったという声はたくさん寄せられています。性同一性障害専門外来であるGIDクリニックの市立病院での設置の可能性と、性同一性障害者への対応はどのようになっていますか。

 7,「学校教育現場において、教師、保護者、児童、生徒などが性同一性障害を正しく理解できるようにすること」に関して、現在、何か取り組んでいますか。また、今後どのように取り組んでいくおつもりですか。

 8,「性同一性障害に関する相談体制の整備」が要望されています。当事者または当事者の家族は、さまざまな悩みを抱えています。彼らは、修学前から自分の体に違和感を覚えることもあり、思春期あたりからはっきり自覚することが多いと言われていますが、そんな時に相談する所がありません。情報提供や医療相談、当事者による相談などの支援をしていくことが必要ですが、たとえば保健所では、そのような相談体制を整えていくおつもりはありませんか。

 9,「市職員に対し研修を行うなど性同一性障害に対する理解の促進を図ること」についてです。「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画では、人権に関わりの深い特定の職業に従事する者として、教員、医療関係者、公務員など13業種に従事する者をあげ、これらの者に対する研修等における人権教育・啓発の充実に努めるものとしています。旭川市における職員への人権教育・啓発はどうのようになっていますか。その中でも性同一性障害に関する理解の促進を図るために、どのようなことに取り組んできましたか、または、取り組もうと考えていますか。

 10、「市民が正しく認知するよう啓発すること」ですが、先程質問した市民に対する人権啓発と合わせてお答えください。
二回目

2回目の質問をします。

 「公文書からの性別欄の削除」については、記載不要事項から、可能な限り削除していただけるとお答え頂きました。ところで、印鑑証明は性別記載が条例で定められていますが、これに関しては条例改正も含めてどの様にお考えですか。
 トイレについてお伺いします。

今後建設する公共施設には、ユニバーサルトイレを作ることが義務付けられていますので、これからは増えていくことと思いますが、今はユニバーサルトイレがない公共施設も、多いのが現状です。新たにユニバーサルトイレを作ることは、財政的にも厳しいことから、代替案として、今ある障害者用トイレに一目で男性でも女性でも誰でも使用できる表示を付け、利用して頂いてはどうでしょうか。現在でも、車いすマークの下に、「どなたでもお使いください」と表示してあるところも多少はありますが、障害のない方が利用しずらいので、はっきりと誰でも使って良いことが判るようにすることは、単に性同一性障害者の利便性が増すばかりではありません。
市の施設の障害者用トイレの数と表示の可能性についてお答えください。

市立病院での対応ですが、初期治療に関しては、旭川医大の精神科神経科の石本先生が、連携を図りたいと言って下さっているので、ぜひ、連携・協力体制を作ってください。 

GIDクリニックの設置は、すぐにはむずかしいことは解ります。そこで、性同一性障害に配慮した診療体制として、診療カードからの性別削除、患者さんの呼び出しの時に、名字のみで呼び出す、特定外来日の設定と性同一性障害に知識のある受付の配置などが、考えられますが、これらに取り組むことは可能ですか。

学校教育現場において性同一性障害について正しく理解する取組ですが、今まで特に取り組んでこなかったことは、この課題が顕在化してきてから、まだ日が浅いことから、仕方がないことだと考えます。

しかし、これからは、性同一性障害も含め、セクシュアル・マイノリティについての正しい知識を、適切な時期や方法で子どもたちに教えることは、小さい時から悩んでいる当事者を救済することは基より、多様な性の在り方を認め、それぞれの人権を尊重することを教える上でも、避けて通るべきではありません。それにはまず、教師がこれらの問題を正しく理解しなければならないと思いますので、ぜひ、教育者自身が学習する機会を持って頂きたいと思います。当事者は理解を得るためには、いつでも喜んで資料を提供したり、講師を引き受けたいと言っていますので、市としても先生たちが学習する機会を設けることを指導すべきと考えます。

次ぎに、人権教育の取組ですが、「従前より人権尊重の精神を育てる教育を行っている」とのお答えです。それはそうなんだと思います。しかし、そういう教育をしているにもかかわらず、人権に配慮しない行いが後を絶たないからこそ、国は、平成12年に先程の「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」をわざわざ制定したのではありませんか。「法律制定後、特に変わるものではありません。」という、これで十分だと言わんばかりのお答えには、納得いきません。

子どもへの人権教育においては、子ども自身が「児童の権利に関する条約」を理解し、自分自身をかけがえのない大切な存在であると知ることが重要です。「児童の権利に関する条約」は、子どもにも解るやさしい言葉で書き直した「子どもによる子どものための『子どもの権利条約』」という本も出ていますので、副読本として活用することも今後の課題だと思います。

川崎市は、「市における子どもの権利を保障する取組は、市に生活するすべての人々の共生(共に生きる)を進め、その権利の保障につながる」とし、「児童の権利に関する条約」の理念に基づき、子どもの権利の保障を進めることを宣言し、平成12年12月に「川崎市子どもの権利に関する条例」を制定しました。その後、この条例に沿って、様々な取組も実施しています。

旭川市も、今まで通りで良しとするのではなく、より一層、人権教育を進めるためにはどうすべきなのか、真剣に考え、行動すべき思いますが、今後の課題として今日の所は指摘にとどめておきます。

さて、市職員に対する性同一性障害に関する研修は実施していないとのことですが、これも今まではやむを得ないと理解します。しかし、今後は、特に窓口担当者などに対しては、学習会などを行い、当事者に不快感を与えないよう配慮すべきです。ぜひ、部局または課単位で結構ですので、行って下さい。

最後に、市民に対する啓発です。性同一性障害に関しては、今まで取り組んでこなかったことは仕方ありませんが、東京都の練馬区などでは、性同一性障害に関するリフレットを市民向けにつくり、啓発に努めています。旭川市においても、新しい人権の課題として、今後は、何らかの形で啓発に取り組むべきと思います。

ところで、今回、人権と性同一性障害に取り組み、庁内のあちらこちらを巡って判ったことですが、旭川市では人権を所管する部局が明確になっておりません。

保健福祉部が窓口になって人権擁護委員協議会に補助金を出していますが、なぜ保健福祉部が窓口になっているのかさえ、不明です。その上、人権擁護委員の人選は、総務部が担当しています。

「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」では、地方自治体の責務が明言され、それを受けて道も平成15年3月に「北海道人権施策推進基本方針」を定め、市町村との連携、協力を挙げています。国や道が手を繋いで頑張りましょうと言っているにもかかわらず、旭川市は、どこが担当部局となって手を差し出すのかさえ、決めていないことが判りました。これでは、今まで、市民に対する人権啓発が何もなされていなかった事も頷けます。法律が制定されて、今まで何をやっていたのか、そもそも法律が出来たことを知っていたのかさえもあやしいと言わざるを得ません。人権問題は、多岐に渡り、色々な部局に関連しますが、今後は、担当部局を決め、その部局がコーディネートしていくべきと考えます。早急に担当部局を決めて、人権教育・人権啓発に取り組むべきと考えますが、後所見をお聞かせください。

三回目
 今、保健福祉部長から、ご答弁いただきましたが、ある課題の担当部局を全庁的に考えて決めるに当って、一部局の部長が答えるというのは、どういうことですか。保健福祉部長にそういう権限があるとは思えません。しかるべき職権をお持ちの方、すなわち市長が答えるべきではありませんか。しかも、担当部局を決めるでもない、あいまいな答弁です。

担当部局がない故に、先日、当事者が主催した講演会の名義後援を市に依頼した折りにも、保健所と保健福祉部と総務部と生活交流部と教育委員会でどこが名義後援するかで、うちではない、いやそっちだと、各部が責任逃れをし、たらい回しにしたのです。

 人権の担当部局を決ることは、当面は、予算的なことや職員を増やすことは何も必要がなく、ただ、担当を決めて、取り組む姿勢を示せばいいだけのことですよ。それさえも、明確に答えられないのですか。

 平成12年に法律が出来てから今日に至るまで、約4年間も、明確な担当部局も決めず、人権教育、人権啓発に関して、なんら積極的に推進する姿勢を示して来なかったばかりか、今までのことはともかく、これから取り組んでいくために担当部局を決めるという市長の責任をも放棄するおつもりですか。 

市長は、先日、当事者の方が要望書を持って訪問されたときに、「ノーマライゼイションということもあり、検討ではなく、積極的に取り組んでいきたい」とテレビカメラに向かって仰っていましたが、あれは、テレビ向けのポーズだったんですか。

札幌市では、上田市長がこの問題に自ら積極的に陣頭指揮を執っていると聞いています。

旭川市の市長として、人権教育と人権啓発に関して、どのようなお考えをお持ちなのか、早急に担当部局を決めるお気持ちがあるのかないのかも含めて、市長の政治姿勢をお伺いしたいと思います。

*第3回目は、2回目の答弁によって、変わるかもしれません。